こんにちは、DEAN & DELUCA 福岡エリアの宮崎です。新しい年を迎えられ、おいしいモノでほっこりされていますでしょうか。本年も健やかに、たのしく、おいしく、どうぞよろしくお願いいたします。
さて、冷気が身にしみる寒の入りの1月といえば、引き締まった身質の良い魚介、身体を温める効果があるといわれる冬野菜、ビタミンが豊富で糖度が高い柑橘やイチゴ、お酒や醤油の寒仕込みが行われるなど… 寒いからこそうまいもんが詰まった季節。そんなうまいもんが揃う今月の福岡店と博多店のテーマは、お馴染みの「ちっご(筑後)の恵み」
全国でもトップクラスの農業先進地であり、地場産業や伝統工芸等の多様な魅力にも満ち溢れた「ちっご」をご紹介します。前回は、うきは市や久留米市といった福岡では名の知れた地域を。今回は、もっと下って熊本県に近いみやま市や柳川市を訪れることに。
その前に、以前からずっと訪問してみたかった筑後地方に伝わる綿織物・久留米絣をつくる八女市の『野村織物』に急遽立ち寄ることにしました。
織り&糸.png 1.11 MB車から出たとたん「カタカタ、カタカタ…」と。とても心地良い懐かしい音とほのかに感じる香色、お庭には染め上げられた絣が風になびいていて。もうワクワクとキラキラが止まらず、早速入店。とても素敵な笑顔で出迎えてくれた野村さんご夫妻が継承する『野村織物』は、明治31年に創業。昔ながらの柄から、現代風な色柄まで、約200年の伝統を持つ重要無形文化財「久留米絣」を幅広い層にたのしんでいただけるように独自の製法とアイデアを駆使して、久留米絣の世界観を広めています。
広い敷地の中には、生糸を染める工房・染糸を織る工房・絣を製反する工房・製品を販売するショップと趣きのある建物が連なっていて… 早速工程順に見学をさせてもらうことに。
野村織物では、多くの織元が外注(分業)している絣づくり工程中の「図案描き」と「染色」を自社で行ない、生地依頼者の要望に応じて、緻密で丁寧な仕上がりを追求しています。生糸を染める工房には大きな窯があり、図面に沿って細い生糸を縛って模様を付けながら染める作業は、温度変化や色の配合、とても細かい図面に沿った強弱さが。
「製経」→「くくり」→「染色」→「摺り込み」→「糊付・乾燥」と染糸をつくるだけでもこんなにも手間のかかる工程で… なんと!気が遠くなりそう。
次はその手間暇をかけた染糸を織物工房で織り上げます。絣の図案に忠実に基づき、経糸を丁寧に巻き台で柄をつくり、巻箱に巻いていきます。また、緯糸は20本の平板を並べ一直線になるように1本1本巻いていきます。ここで少しでもズレたら柄が崩れる… なんと!!まさにきめ細やかな技術のいる作業。
反物&バック.png 1.03 MBそして織の最終工程「機織り」 経糸の紋様とトングに巻いた緯糸の紋様を決してズレないように重ね合わせて織っていきます。カタカタカタカタ…  織り上がったら、糊を落とすために洗って天日で乾燥し、仕上がりを入念にチェックしながら四つ折りに整反して最終仕上げ。なんと!!!精巧さを極めた熟練した経験と技なんでしょう。常に感動。
反物にできあがるまでこんなにも手間と時間がかかるなんて、様々な染色と細やかな柄の仕上がりにまたもや感動。

実は、2020年福岡店の5周年の際に野村織物とのコラボレーションで久留米絣のショッピングバック(画像)を企画。「今度の10周年もご一緒したいですね」「久留米絣でつくるワークショップなどやりたいですね」と伝統をじっくりと学んだあとに、この素晴らしい絣を皆さんにご紹介したい!と野村さんご夫妻と話が弾みました。
野村さん.JPG 2.18 MB美しく、木綿ならではの素朴な風合いがあり、いにしえのロマンさえも感じる久留米絣にすっかり魅了され、全員が久留米絣のとりこに!ショップにて久留米絣のもんぺを購入。もんぺと言えど、見た目は赤と黒のチェックでちょっとロックな今どき風。膝をついての作業着としてつくられたもんぺは、膝部分が2重構造でポケットが前後についている優れもの。シェフは名刺入れを、他のメンバーも巾着などを購入。伝統の余韻に浸りながら次に向かうことに。

食旅といえば、パン屋は欠かせないでしょ、八女市吉田にある『Olivier Rain』へ。
オリビエ&パン.png 1.27 MBOlivier Rainは、八女の新鮮な食材と福岡店でもお世話になっている八女市『梅野製粉』の小麦粉「ミナミノカオリ」を使ってつくり上げる無添加のパンを製造・販売しています。特に生地にこだわっていて、バゲットやカンパーニュのマイルドな味わいとパリッと感、ふんわり香るバターともっちりとした食感の食パン、八女特産の食材を生かした総菜パンなど見ているだけでたのしくて、おいしくて。そんなこんなで、たくさん購入してしまいました。

芳ばしい香りを浴びた後は、みやま市瀬高町の『いのうえファーム』へ。
華小町&産毛.png 1.04 MB井上さんとも長らくのお付き合いをさせていただいてます。井上さんが栽培する「華小町トマト」は筑後を代表するピカイチのトマトと自慢したいくらい!ミディトマトで糖度が8度以上、皮は薄く、甘味もあり、果肉もぎゅーっと詰まっている濃厚な味わいが特徴。よーく見ると表面に可愛らしい産毛がたくさんあって、この産毛の理由はトマトが水を欲しがっている証拠なんだとか。「水を極力おさえてつくるとトマト自体が自分の体の中に栄養分を蓄えるので、旨味が増すんです。この産毛はおいしいトマトの証なんですよ」フルーツと勘違いするほどの甘くて愛らしいトマトを栽培するのもひと苦労。苗の植え付けから土壌の管理、ハウスの温度調整、丁寧な間引きや水やり、そして収穫。全てがひとつひとつの手作業。そんな大変な栽培工程でも、華小町の愛おしさがお顔と人柄にしっかりと染み出ていて、華小町の話をされる井上さんとお父さんの笑顔が素敵すぎました。
「何個でも採って持って帰らんねー。もいで食べたっちゃよかよ」とお父さん。「では、遠慮なく―」
トマト.JPG 1.16 MB「こりゃ、おいしかばい!がば甘かッ!」「おいしすぎて、止まらん!」
元々、ナス農家だった井上さん。隣のハウスでは立派なナスも育っていました。もちろんナスも絶品で、肉厚で旨味が詰まったナスは、華小町との相性も抜群。今回は素材をシンプルに味わっていただこうと「華小町&ナスのローストとモッツァレラチーズ」「華小町トマトと春菊のリュスティック」「ちっご野菜のフォカッチャピザ」など… シェフが腕を振るって出品します。ぜひ、1月のデリとベーカリーコーナーでおたのしみください。
井上さん&カプレ.png 1.23 MB
そんな井上さんに、同じみやま市の特産「みやまセロリ」を栽培している『小川農園』へアテンドしていただきました。いやー、ついに来ました「みやまセロリ」
ご存知の方もいるかと思いますが、みやま市はセロリの三大生産地のひとつで西日本一の出荷量を誇ります。収穫は11月中旬から始まり、寒くなるこの時期が最もおいしくなるそう。みやまセロリの特徴は、1株がなんとも大きく!実は甘くてクセが少なく、セロリが苦手な人でも食べられちゃうくらい。セロリに対する印象が大きく変わる人も多いとか。
セロリ畑.JPG 3.09 MB「今はまだこのくらいの小さな背丈だけど、収穫時は約70㎝、重さ1.7kgになります。まるで赤ちゃんみたいな大きさ!」と話す小川さんの横には、膝丈ほどに育ったセロリが。セロリは暑さが苦手で涼しい気候を好む野菜。そんなセロリが温暖なみやま市で栽培されるようになったのは、1962年。佐世保の米軍基地の依頼からだったといいます。しかし、クセのある香りと苦みのある味で、日本人にはなかなか受け入れられず、品種改良や生産者の努力で、甘くてクセの少ない食べやすいセロリができるようになったのです。
セロリ.JPG 2.71 MB「そのまま食べてもクセがなく、繊維が少ないから食べやすいんですよ」 目の前でセロリの根元をサクッと切って、まさに採れたてを試食。シャリッとひと口頬張ると、まるで果物のような甘さ!一般的なセロリ感がまったくないのです。茎が肉厚でCの形に丸まっているもので茎の色は白いものほど甘く、独特の香りが少なくて食べやすい。切り口と葉先がみずみずしいものが新鮮なんだそう。
そんなみやまセロリは抱えるだけでも重たく、根本から切り取る収穫作業は、かなりの力仕事。「最盛期は1日500株以上を収穫しています」と話す小川さんをはじめ、セロリを栽培している農家は自らの手で、収穫、選別、袋詰め、軽量、箱詰めに至るまですべて手作業で行っているといいます。腰をかがめて収穫する姿勢はもちろん、丁寧に箱に詰めてトラックに積み込むのは想像以上に体力が必要。それでも手作業にこだわるのは、「鮮度が命の繊細なセロリをできるだけ最良の状態で届けたい」という思いから。みやま市の道の駅には、1株丸ごとのセロリが大量に販売。昼過ぎには完売してしまうほどで、遠方からやレストランのシェフなどわざわざみやま市にセロリを買いにやってくるんだとか。みやまが誇るセロリ、ぜひ皆さんにも味わってほしいです。
米&集合.png 893.64 KBそして、「今年の新米は抜群においしかけん、持って帰り―」と。精米仕立てのお米をバケツにたっぷりと、精米してすぐだったのでお米が温かくてホカホカ。それこそ赤ちゃんぐらいの重さのお米を各自お土産でいただいちゃいました。セロリ同様、みやま特産の高菜漬けと一緒に新米を食べんといかん!

さぁ、新米を抱えて何ともお腹がすいてきた私たちは、柳川方面へ。
本日のメインイベントともいえる、柳川特産「うなぎのせいろ蒸し」を食べに天和元年創業、330年以上の歴史がある『本吉屋』に。せっかくなら水郷・柳川の伝統を学ばなければ… とランチにしては豪勢なうなぎをいただきます。
本吉屋&鰻.png 1.37 MB厳選した国産うなぎを熟練の職人が炭火で一本一本焼きあげます。タレをまぶしたご飯だけをまず蒸して、その後、蒲焼と錦糸卵をのせて再び蒸す、という2度蒸しの手間をかけているそう。この2度蒸しをすることにより、ご飯がふっくらとしてタレとよく馴染み、ご飯の一粒一粒が茶色に染まって、どの一口もおいしいご飯に。そして、蒲焼は香ばしさを残しながらも、柔らかくふわっとした食感になり、ご飯にも蒲焼の旨味が染みわたり、最後まで熱々でおいしい!
口いっぱいに広がる、うなぎのおいしさ、香ばしさと柔らかさを存分にたのしめるのが、せいろ蒸しの醍醐味。茅葺屋根の趣ある佇まいと330余年継ぎ足してきた秘伝のタレ、柳川の歴史を学んだ瞬間でした。おいしすぎました!

次に、柳川の文化にどっぷり浸ったところで、本吉屋から車で5分。柳川の川のほとりに工場と店を構える醤油と味噌を製造・販売する『アサヒ醸造』へお邪魔しました。
アサヒ醸造は明治43年創業。味噌や醤油はもちろん、米麹や九州では珍しい大豆麹をつくっています。私たちが訪れた時間は既に各作業が終わっていて、各工程の見学はできませんでしたが、社長の藤井さんが自ら工場内を案内してくれ、九州さながらの甘くて芳ばしい醤油の香りがあちらこちらから…
発酵&開発室.png 1.19 MB醤油を保管している大きな樽や商品開発を行っている調合部屋、味噌づくり教室のお部屋など、なんかワクワクする工場内。福岡店でも販売している「まろやかしょうゆ」は、九州しょうゆの特徴である甘味を米麹で、旨味を大豆麹で醸し出した、甘味料・調味料を使用していないさいしこみ(本醸造)しょうゆ。麹の力だけで生み出された低塩でまろやかなしょうゆが、この開発室から世に出ていったとは…
そして、メンバーにも人気の「田舎あわせみそ」も独自の大豆蒸煮技術を生かして熟成、米麹の甘味、麦麹のコクが絶妙にミックスされたどこか懐かしさもあり本格派の味噌は九州ならではの風味を醸し出します。
zyouzou.JPG 2.41 MB味噌や醤油といった発酵食品はその土地ならではの食文化が滋味できるので、福岡店の九州マーケットでも九州のお土産にとまとめ買いをされる方も多いんです。アサヒ醸造の「まろやかしょうゆ」と「田舎あわせみそ」を買っておけば間違いなしです!

さて、もうそろそろ日も落ちる時間ですが最後に向かったのは、みやま市『江の浦海苔本舗』へ。
江の浦店外&店内.png 1.18 MB元々海苔漁師であった店主の森田さんが海苔の加工製造・販売を行う『江の浦海苔本舗』の海苔は、DEAN & DELUCAでもお土産やギフトにと人気の商品。可愛らしいパーケージに包まれた海苔は、焼きのりから味のり、佃煮といろんなアイデアで様々な料理に活用できるようにとても工夫されていて、見た目からも「これ食べてみたいな…」「お土産に買って帰ろうかな…」という魅力的な商品ばかり。
というのも、森田さんが漁師時代に市販の海苔を食べたところ海苔の風味が活かされず、質が落ちていることにショック。漁師たちが普段食べている海苔とは別物に感じたんだという。「有明海は、日本一海苔づくりに適した海なんです。僕らの食べている、海苔本来のおいしさを自ら届けたいと思い転身しました」と。
海苔をつくる工房では、海苔の薄さや幅を決める0.01mm単位のたくさんの機材や大きなコンベア、選定やパッキング場所などがあり、磯の香りに包まれた大量の海苔がお店に出品されるのを待ち構えておりました。
江の浦さん.JPG 1.36 MB私たちのとても身近にある海苔ですが(私は、無類の海苔好き!)やはり製品になるまでは、手間もかかれば伝統的なしがらみもあり、区画や県政の規制もありで、かなりのご苦労があるのだそう。
「有明海の干潟にはムツゴロウやワラスボなどの独自の生き物たちが生息していて、干潟の泥は田畑の肥料として使われるほど栄養を含んでるんですよ。そこで育つ海苔は、海の干満差と太陽の光で栄養とおいしさをたっぷり閉じ込めているんです」有明海の磯の香りとおいしさを食卓に届ける難しさに長年営まれていても試行錯誤。一生懸命に語ってくれる森田さんからは、元海苔漁師の誇りを懸けた熱い決意が感じ取れました。

もうお暇せねばと店外に出たら、真っ暗!
そして何だかみんなぐったり。行くところ行くところ情熱的なお話と学びが満載で… 良い意味で頭がいっぱい、お腹もいっぱい。お土産もいっぱい(笑)いやー、1日中「なるほど!」「感動!」ばかりで今回もとても充実したちっごの旅になりました。

自分の故郷にも関わらず、恥ずかしながらまだまだ知らないことばかり。その土地の文化や風景を直で学び、田舎のあたりまえは、私たちにとって贅沢な… 知恵と手間暇が込められたごちそうなんだな、と感じずにはいられませんでした。それぞれの独自のこだわりや熱い思いをしっかりと商品にのせて、皆さまに伝えていくことを存分にたのしみたいなと改めて思いました。
BK集合.JPG 1.52 MBならはらさん野菜.png 1.19 MB1月の福岡店と博多店では、今回訪れた筑後の旬の食材をふんだんに使ったお料理やベーカリー、そして伝統とこだわりが詰まった加工品が並びます。中旬には筑後の採れたて野菜やフルーツ、お米や加工品が天神駅チカでお買いものができるマルシェも開催。アーティザンに商品のこだわりや調理法などを直接聞いてぜひぜひ筑後のお気に入りを見つけてください。お待ちしてます!

「CHIKUGO Marche d'hiver」
開催日時:2025年1月18日(土)、19日(日)    各日11:00-17:00
開催店舗:DEAN & DELUCA 福岡店
出展予定アーティザン : 酢造発酵場SU(うきは)/ KAWAKATSU FARM(久留米)/ 根菜人(久留米)/ 高木茶園(八女)/ ならはら菜園(久留米)/ 久保山農園(朝倉)/ いのうえファーム(みやま)18日のみ出展 / MARUKO FARM(久留米)19日のみ出展